心不全の治療方法とは
心不全は大きく「急性心不全」と「慢性心不全」の2つに分類され、治療は根本的に異なります。心臓の機能が低下し、心臓が全身の臓器に十分な血液を送れない状態の事をいい、日本循環器学会の定義では“心臓が悪いために息切れや浮腫みが起こり、だんだん悪くなり生命を縮める病気”とされています。
◇ 急性心不全の治療

急性心不全は、急性心筋梗塞や高血圧、感染症などが原因で、迅速な症状の緩和と生命の保護が治療の目標です。治療法には、呼吸を助ける酸素療法、体内の余分な水分を排泄する利尿薬や血管を拡げ血圧を安定させる降圧薬、心臓の機能を高める強心剤などが使われ、心臓の負担を減少させて循環不全を改善し、急性期の症状の制御と悪化を防ぎます。
◇ 慢性心不全の治療
慢性心不全は、慢性的に心不全の状態が続き徐々に進行するので、心臓の保護と症状の緩和が重要です。悪化に伴う入退院の回数を減らし、生活の質の向上が治療の目標です。適切な運動療法や食事療法に加え、薬物療法が中心で、利尿薬、ACE阻害薬、β遮断薬などが使われ、心機能を改善し症状の進行を遅らせます。
急性心不全の治療とはどのようなことを行う?
急性心不全の治療で、薬物療法で改善しない場合は、IABP(大動脈内バルーンパンピング)とPCPS(経皮的心肺補助法)を用いて治療を行います。
◇ IABP(大動脈内バルーンパンピング)による治療
大動脈内に挿入したバルーンが心臓の収縮と弛緩に同調して縮んだり膨らむことで、冠動脈への血液供給を改善し、心臓の効率を向上させます。これにより心臓の負担を減少させ、酸素供給が増加するため、症状が緩和されます。
◇ PCPS(経皮的心肺補助法)による治療
体表からカテーテルを介して心臓と肺の機能を一時的に補助します。この方法は、心臓や肺の急激な機能低下時に、酸素供給や血行動態を維持するために利用されます。
慢性心不全の治療とはどのようなことを行う?
慢性心不全の治療は症状の軽減、生活の質の向上、進行の抑制を目指して、総合的な治療アプローチを行います。
1. 薬物療法
心不全の治療の基本となり複数の薬剤が使用され、その目的は大きく分けて2つあります。
浮腫や息切れなど症状の改善
心不全になると体内に水分とナトリウムが溜まって血液がうっ滞を起こし浮腫や息切れを起こします。うっ血の改善や血圧の調整で心臓の負担軽減、液体のバランスの維持などに寄与します。
予後の改善
心不全の悪化による入退院を防ぎ、生活の質(QOL)を改善します。
2. 生活様式の変更
健康的な生活習慣の確立が重要です。体重の管理や血圧のコントロールを行ない、心臓への負担を軽減します。
3.心臓リハビリテーション:
専門のプログラムを通じて、患者様は生活習慣の改善、運動療法、心理的サポートを受けます。
4.装置や手術
必要に応じてペースメーカーや除細動器の装着、冠動脈バイパス手術、心臓弁の修復または置換手術が行われることがあります。
5.定期的なフォローアップ
医療機関への定期的な受診が必要です。また、日々の血圧、脈拍、息切れ、体重などの身体の状態や自覚症状などを記録して、わずかな変化をも察知することも大切です。
慢性心不全の治療は総合的なものであり、患者様の個別の状態やニーズに合わせて調整されます。これにより、患者様の生活の質を向上させ、症状の進行を抑制し、予後を良好にすることが目指されます。治療は継続的なものであり、患者様ご自身での身体のメンテナンス、医師や医療チームの適切な判断や密な協力が予後の改善に重要です。

心不全の治療で用いる治療薬について
心不全の治療に用いる主な薬剤は、
1) ACE阻害薬、ARB
2) ベータ遮断薬
3) 抗アルドステロン薬
4) 利尿薬
5) 強心薬(ジギタリス他)
があります。
治療はこれらの薬剤を組み合わせ、患者様の状態やニーズに合わせて調整されます。
◇ ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、ARBについて
ACE阻害薬はアンジオテンシン変換酵素を阻害して血管収縮を抑制し、心臓への負担を減少させ、血圧を降下させます。一方、ARBはアンジオテンシンII受容体をブロックして同様の効果を発揮します。これらの薬剤は血圧の調整や心機能の向上を促進し、心不全の症状の改善や予後の向上に寄与します。
◇ ベータ遮断薬について
この薬剤は心臓の働きを抑制し、心拍数を減少させ、心臓の負担を軽減します。また、血圧もコントロールします。これにより酸素供給と需要のバランスが調整され、心機能が向上し、症状が軽減します。ベータ遮断薬は不整脈の予防や心筋梗塞のリスク軽減や生活の質と予後の改善に寄与します。治療は重症度に応じて選択されます。
◇ 抗アルドステロン薬について
この薬剤はアルドステロン受容体をブロックし、ナトリウムと水分の尿中排泄を促進し、体液負担を減少させ、血圧を調整し、心臓への負担を軽減します。また、心筋の線維化を抑制し、心機能を改善します。主に慢性心不全患者の予後を向上させるために使用され、治療は患者の腎機能やカリウムレベルなどをモニタリングしながら投与します。
◇ 利尿薬について
利尿薬は、体内の余分な塩分や水分を尿として排出し、体液負担を軽減します。これにより、循環血液量が減少し、心臓への負担が軽くなり、浮腫や肺うっ血といった症状を緩和し、血圧の調整にも寄与します。異なる種類の利尿薬があり、治療計画は患者の状態や他の薬剤との相互作用に基づいて慎重に調整されます。
◇ 強心薬(ジギタリス他)について
ジギタリスなどの強心薬が使用され、心臓の収縮力を強化し、心拍数を安定化させます。不整脈を抑制し、心臓のポンプ機能が向上し、血液の循環が改善します。
心不全の手術方法について
心不全の手術方法にはIABP(大動脈内バルーンパンピング)、PCPS(経皮的心肺補助法)の他にCRT(心臓再同期療法)があります。CRTは心臓の左心室と右心室の不同期を修正するために導入され、両心室の同期性を回復させて心機能の向上を図ります。
◇ CRT(心臓再同期療法)とは
心不全では心臓の左心室と右心室の収縮が協調せず、同期性が乱れることがあります。CRTはこの不同期を修正し、心臓の機能を向上させることを目的としています。CRTは、ペースメーカーを使用して行われます。心臓に電極を配置し、これによって心臓の異なる部位に同時に電気信号を送ることで、左心室と右心室の収縮を同時に促進します。これにより心臓のポンプ機能が向上し、血液の効率的な送り出しが行われるようになります。この治療法は特に拡張型心筋症や冠動脈疾患による心不全の患者に適しており、CRTにより心臓の同期性が回復することで、循環血液量が増加し、症状の改善や生活の質の向上が期待されます。 手術は一般的には外科的ではなく、通常は皮膚に小さな切開を行い、導線を挿入して行います。CRTは心不全患者において症状の軽減や生活の質の向上に寄与する重要な手段の一つとなっています。
VAD(補助人工心臓)とは
VADは生命を維持する効果があり、体外の機械が血液をポンピングし、心臓がうまく働かない時に血流を維持します。これは一時的な措置として使用されることがあり、心不全や心筋梗塞、心臓手術後の患者に適用されます。
心臓移植
心不全の最終的な治療法として行われる手術の一つが心臓移植です。この手術では、機能不全の心臓を健康なドナーの心臓と交換します。心臓移植は重度の心不全で生存が困難な患者に対して行われ、生命の質を改善し、生存期間を延ばすことが期待されます。

まとめ
心不全は「心臓のポンプ機能が不足し、全身に十分な血液を送り出せない状態」で、その主な原因は「冠動脈疾患、高血圧、心筋症、心臓弁膜症」などの心臓疾患です。心不全の予防には 「生活習慣、バランスの取れた食事、適切な運動」が重要です。高血圧や糖尿病などのリスクファクターの管理も予防に寄与します。心不全の診断には、心臓から分泌されるホルモンの一種である「脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)」の測定や心臓(冠動脈)CTやMRIなどの画像診断が有効です。心臓は全身に血液を送り出す生体ポンプです。心不全は、心臓疾患の中で死亡率も高く、予後も不良です。定期的な検診と生活習慣の改善が心不全の予防と管理に役立ちます。