


乳房のしこりは、触れたときの感触や発生部位(どこにできるか)が様々であり、良性の場合もあれば乳がんのサインであることもあります。乳がんは女性でもっとも罹患数の多いがんであり、早期発見が治療成績を大きく左右します。自己触診(セルフチェック)は乳がんを早期発見する有効な手段ですが、しこりなのかどうかがわからないことも多いため、定期的な検診が不可欠です。本記事では、乳房のしこりの種類や特徴、良性・悪性の見分け方、セルフチェックの方法などについて解説いたします。
乳房のしこりとは何か

乳房のしこりは様々な原因で生じます。こちらでは、次の3点についてご説明します。
・しこりの正体:乳房に現れる塊の種類
・しこりが生じる部位とメカニズム
・良性のしこりと悪性のしこりの違い
しこりの正体:乳房に現れる塊の種類
乳房のしこりは、良性の場合と悪性の場合があります。良性の例としては、乳腺症(主に30~40代女性に多く、乳腺組織が硬くなったもの)、線維腺腫(10~30代の若年層に多い、弾力のある可動性のある腫瘤)、嚢胞(閉経前後の女性に多く、乳管内に液体がたまったもの)があります。
一方、乳がんによるしこりは表面が不整で硬く、可動性が乏しいことが特徴です。乳がんは、乳房のしこりの性状(硬さ・形状・可動性)などからある程度推測できますが、それだけで確定診断はできません。確定診断には、画像検査や病理検査が必要です。
しこりが生じる部位とメカニズム
乳腺は乳頭を中心に放射状に広がっていますが、特に外上部(腋窩側:脇の下に近い部分)に多く分布しています。外上部は乳腺組織量が多く、さらにリンパ流の経路に近いため、腫瘍の発生・転移が見られやすい部位とされています。そのため、乳房のしこりも外上部に発生することが多く、乳がんも同部位に好発します。同じように、良性腫瘍である乳腺症、線維腺腫、嚢胞も、乳腺の密度が高い外上部に多く見られる傾向があります。
良性のしこりと悪性のしこりの違い
乳房のしこりは、その性状などから良性と悪性をある程度推測できます。
良性のしこりの特徴 | 悪性のしこりの特徴 | |
---|---|---|
触感 | 弾力があり、やわらかめ | 硬く、石のよう |
可動性 | 周囲の組織と独立して動く | 固定され動きにくい |
痛み | 月経周期で変動する痛みがある | 多くは無痛 |
形状 | 表面がなめらかで円形 | 不整形で凹凸がある |
医師はこれらの特徴に加え、しこりの大きさ変化、皮膚のひきつれや乳頭分泌の有無、左右差などを観察します。悪性が疑われる場合は、画像検査や病理検査をおこないます。
乳がんのしこりの特徴
乳房のしこりは、乳がんの早期発見の重要な手がかりとなります。こちらでは、次の4点についてご説明します。
・乳がんしこりの典型的な触感と形状
・しこりの位置から考えられる可能性
・見逃しやすい初期症状の特徴
・しこり以外に注意すべき乳がんサイン
乳がんしこりの典型的な触感と形状
乳がんのしこりの典型的な触感は、石のように硬く、押すとゴリッとした抵抗があることです。周囲組織に絡むため可動性に乏しく、押しても動きにくいのが特徴です。形状は円形ではなく不整形で、触れるとギザギザした境界(辺縁不整)を感じ、放射状の突起(スピキュラ)による皮膚のひきつれを伴うこともあります。また、多くは無痛ですが例外もあります。
しこりの位置から考えられる可能性
上述のとおり、乳がんは乳房の「外上部」に最も多く発生し、約45~50%が外上部に認められるという統計データもあります。次いで、「内上部」「外下部」「内下部」の順で発症頻度が低下します。もちろん、内側のしこりも乳がんの可能性は否定できません。特に、しこりに硬さや可動性低下がある場合は注意が必要です。
見逃しやすい初期症状の特徴
乳がんの初期はしこりが小さくやわらかいため、わからない場合が多く、特に乳房の奥深くや乳頭近く、胸筋に近い位置では見逃されやすくなります。また、外側上部など脇の下に近い部位のしこりは自己触診で確認しにくい傾向があります。痛みや皮膚の変化がない場合も多く、日常の中で気づきにくいのが特徴です。そのため、定期的に検診を受けることが重要です。
しこり以外に注意すべき乳がんサイン
しこり以外にも、乳がんの初期には次のようなサインが現れることがあります。
・乳房の皮膚が赤くなる、厚くなる、えくぼ状にくぼむ
・乳頭から血性や透明な分泌物が出る
・乳頭が陥没する、形が変わる
・乳房の左右差が急に目立つようになる
・腋の下にしこりや腫れを感じる
しこりがわからない場合も、これらの変化があるときは早期に医療機関を受診しましょう。
正しいセルフチェック方法

セルフチェックは、乳がんの早期発見に欠かせない取り組みです。視覚と触覚を使い、乳房全体を丁寧に確認することが大切です。こちらでは、次の2点についてご説明します。
・最適なタイミング:いつおこなうべき?
・ステップ別セルフ触診の正しい手順
最適なタイミング:いつおこなうべき?
乳房のセルフチェックは月に1回、乳腺がやわらかくむくみの少ない時期におこなうのが理想です(しこりを触知しやすいため)。月経がある場合は、出血開始から7〜10日後がセルフチェックに適しています。妊娠中の方は、乳腺の張りが比較的落ち着く時期におこなうのが良いでしょう。閉経後は、毎月同じ日を決めてセルフチェックをすることをおすすめします。
ステップ別セルフ触診の正しい手順
乳房のセルフチェックは入浴時に鏡の前で、また就寝前に次の手順でおこないましょう。
▼入浴時
①鏡の前で両腕を下ろし、左右の乳房の形や皮膚のくぼみ、乳頭の変化を観察する。
②両腕を上げ、同様に観察する。
③石けんを付け、3本の指の腹で円を描くように乳房全体を軽く押しながら触診する。
▼就寝前
①仰向けになり、3本の指の腹で円を描くように乳房全体を軽く押しながら触診する。
②乳頭を軽くつまみ、分泌物の有無を確認する。
しこりが「わからない」と感じる理由
乳房のしこりは、大きさや位置などによっては「わからない」と感じるケースがあります。こちらでは、次の4点についてご説明します。
・乳腺の密度が高く触診しづらい人の特徴
・ホルモンによる乳房の変化と誤解
・自己触診の経験不足による判断の難しさ
・見落としがちな部位とチェックのコツ
乳腺の密度が高く触診しづらい人の特徴
乳腺密度が高い人は、乳房の内部が乳腺組織で占められる割合が多く、脂肪組織が少ないのが特徴です。特に20~40代の人や、痩せ型で乳腺が発達している人に多く見られます。乳腺密度が高い人は、触診をしてもしこりがわからない場合があります。セルフチェックは毎月同じ時期におこない、しこりの有無だけでなく乳房の形や硬さの変化を継続的に確認することが重要です。また、乳腺密度が高いとマンモグラフィ検査の診断精度が下がるため、エコー検査(超音波検査)も併用することをおすすめします。
ホルモンによる乳房の変化と誤解
月経周期や妊娠、更年期などによるホルモンの変化が、乳房の張りや痛み、しこりのような感触を引き起こすことがあります。特に、排卵後から月経前にかけては乳腺が一時的に腫れ、硬く感じることがあり、乳がんのしこりと誤解されることもあります。これらの変化は多くの場合、月経開始とともになくなりますが、月経周期に関係なく硬いしこりが残る場合は注意が必要です。「大丈夫だろう」などと自己判断せず、医療機関を受診することをおすすめします。
自己触診の経験不足による判断の難しさ
自己触診の経験が不足していると、セルフチェックをしても乳房の状態を把握できず、小さなしこりや硬さの変化がわからない場合や、逆に正常な乳腺の感触をしこりと誤解してしまう場合があります。セルフチェックの精度を高めるためには、できるだけ毎月同じタイミングでおこない、乳房の形状や硬さを記録することが大切です。加えて、医療機関で触診方法を指導してもらうことで、より正確に異常を識別できるようになります。
見落としがちな部位とチェックのコツ
乳房のセルフチェックでは、乳房だけでなく脇の下や鎖骨周辺も確認するようにしましょう。脇の下にはリンパ節があり、乳がんが転移した場合に腫れやしこりが出ることがあります。鎖骨周辺もリンパ節の集まる部位で、異常が現れることがあります。セルフチェックの際は、腕を軽く上げて指の腹で円を描くように触れ、左右の差や硬い部分の有無を確かめます。
しこりを見つけたときの対処法
乳房にしこりを感じた場合は、早期に医療機関を受診することが重要です。こちらでは、次の3点についてご説明します。
・すぐに受診すべき症状とは?
・専門医への相談:何科を選ぶべき?
・検査の種類と流れ:何がおこなわれる?
すぐに受診すべき症状とは?
乳房のしこりが硬く境界が不明瞭な場合、しこりの可動性がない場合、しこりが急に大きくなった場合、皮膚のひきつれや赤みがある場合、乳頭から血性分泌物が出る場合などは、すみやかに医療機関を受診しましょう。左右対称でやわらかいしこりや、月経後に消えるしこりは経過観察も可能ですが、少しでも疑わしいと感じる場合は受診することをおすすめします。
専門医への相談:何科を選ぶべき?
乳房にしこりを感じた場合は、まず乳腺外科を受診しましょう。乳腺外科は乳がんや良性腫瘍の診断・治療に特化しており、マンモグラフィやエコーなどの検査体制が整っています。近くに乳腺外科がない場合は、外科や婦人科でも対応可能ですが、乳腺疾患の経験が豊富な医院を選ぶことが重要です。乳腺認定医や乳腺専門医は日本乳癌学会のWebサイトに掲載されています。
▼関連リンク
認定者/認定施設一覧|一般社団法人 日本乳癌学会
検査の種類と流れ:何がおこなわれる?
乳房にしこりを感じて医療機関を受診すると、まず視診・触診でしこりの位置や硬さ、皮膚や乳頭の変化を確認します。その後、マンモグラフィ検査でX線写真を撮影し、乳房内部の石灰化や腫瘤の有無を評価します。乳腺の密度が高い場合や形状を詳細に確認する場合は、エコー検査を併用するのが一般的です。必要に応じて、針生検や細胞診で組織を採取し、病理診断をおこないます。これらの検査を組み合わせることで、良性・悪性の確定診断が可能になります。
まとめ
乳がんは、早期発見・早期治療によって治療成績や生存率が大きく向上します。そのため、日頃から乳房の異変に気付けるよう、セルフチェックを習慣化することが重要です。ただし、乳がんは初期症状に乏しく、セルフチェックではわからない場合もあるので、定期的に人間ドック・がん検診を受診することをおすすめします。
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乳がん検診はいつから受ける?頻度は?若くても受けたほうがいいケースを解説
※参考:
乳房:[国立がん研究センター がん統計]
乳がん検診について:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 |一般社団法人日本乳癌学会