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Medicコラム

高橋 通[たかはしとおる]東京国際クリニック/医科 院長
循環器科・抗加齢医療

高橋 通

肥満がもたらす11種の健康障害

飽食の時代と云われて久しく、メタボリックシンドローム警鐘時代を経て、コロナウイルスの猛威を経験し、現在では「コロナ太り」と呼ばれる肥満が増加しています。運動不足と不節制な食生活などから生じる生活習慣病はいまや、子供やペットに至るまで蔓延し、国を挙げての対策も効果は限定的です。ここで今一度、肥満が健康にどのような悪影響を及ぼすのかを見直してみたいと思います。

 

1. 医学の父ヒポクラテスの言葉

古代ギリシャの医聖ヒポクラテスも「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」と言い、また「医食同源」という中国の古言にもあるように、食事と健康は密接な関係にあります。肥満の原因はまず食生活にあると言っても過言ではありません。食事は生命の維持に、また飢餓に備えるために、そして身体作りに欠かせませんが、量が多すぎると肥満となり、それが様々な疾患へとつながっていきます。

 

2. BMI(Body Mass Index)は肥満度の指標

BMIは、国際的な肥満度の指標として用いられています。

● BMI値=体重(kg)÷(身長m×身長m)

身長170cmで体重70kgの場合、70÷(1.7×1.7)=24.22でこの人のBMI値は24.22です。
日本肥満学会の判定基準によれば、正常のBMI値は18.5~25未満です。すなわちBMI値 25以上は肥満ということになります。

 

3. 肥満と関係の深い11種類の疾患群

「肥満に起因したり関連する11の健康障害」として日本肥満学会が「肥満症治療ガイドライン」に掲げているのが<表1>です。
この11の健康障害を見ると、高血圧や脳梗塞などの血管系の疾患や脂肪肝、肥満が原因となる腎臓病、運動器疾患など、さまざまな健康障害を引き起こすことがわかります。肥満は放置すると全身に悪影響を及ぼす可能性をもった怖い障害と言えるのです。

 

4. 肥満と循環器系の疾患

循環器系の疾患を少し詳しく見てみましょう。肥満の影響は循環器系器官が一番受けやすいと云われています。なぜなら突然死をも招く恐ろしい結果につながることがあるからです。肥満から糖尿病を発症している方の場合、胸の痛みを感じないまま心筋梗塞を起こし、朝起きてこないので家人がベッドを確認したところ亡くなっていたという事例もあります。

 

狭心症と心臓周囲脂肪

「狭心症」は血管の内側が狭くなる病気ですが、肥満から生じる高血圧、糖尿病、脂質異常症といった疾患をお持ちの方は「第3の脂肪」と呼ばれる脂肪が心臓の周囲に付着してきます。皮下脂肪、内臓脂肪、そして3つ目がこの「心臓周囲脂肪」です。この脂肪が蓄積されてくると、冠動脈に毛細血管を介して炎症性のサイトカインが送られ炎症が生じます。この炎症によりプラーク(粥腫)ができて、やがて狭心症の症状が出現します。20歳の頃と比較して体重が10kg以上増えている方は要注意です。

 

アディポサイトカインの働き

メタボリックシンドロームの原因となる内臓脂肪が蓄積すると、「アディポサイトカイン」と呼ばれる生理活性物質の分泌異常が発生します。アディポサイトカインは数種類の物質の総称ですが、循環器系の疾患においてアディポサイトカインの中で注目したいのがレプチンとPAI-1(パイワン)、そしてアディポネクチンです。

① レプチン

レプチンは、食欲を抑え体重を適正に保つ働きを持ったホルモンです。蓄えている脂肪が増加すると、それに比例して分泌が高まり、食欲を低下させ肥満を防ぎます。しかし一旦肥満になってしまうと、血中のレプチンの濃度が高いにも関わらず食欲が抑えられなくなってくることがあります。これは「レプチン抵抗性」の状態といえ、さらに食べ過ぎが進み体重が増加します。この状態になると女性の生殖機能にも影響を与え、月経不順や不妊症などにもつながっていきます。
さらに睡眠も大きく関与します。睡眠不足になるとレプチンの分泌が低下し、胃から分泌されるグレリンというホルモンが増加するので食欲が増進します。よく「睡眠不足で食欲が止まらない」というお話を聞きますが、こうしたホルモンが作用しているのです。加えてレプチンは、糖尿病に関連する抗インスリン抵抗性を持っているので、血糖値を下げる働きがあり、その点でもその重要性に注目が集まっています。

② PAI-1

PAI-1は血栓塞栓症を起こす原因にもなる物質です。PAI-1は血管内の内皮細胞や脂肪細胞から分泌されますが、肥満度が高くなるとこの分泌が増加し、血栓が作られやすい状態になってくるので心筋梗塞や脳梗塞の危険度が高まります。
脂肪細胞から分泌される善玉物質です。長寿ホルモンともいわれています。動脈のプラーク形成を防ぎ、血管壁の傷を修復してくれたり、血管拡張作用があります。内臓脂肪が増えると、その分泌量は減ってしまいます。

③ アディポネクチン

脂肪細胞から分泌される善玉物質です。長寿ホルモンともいわれています。動脈のプラーク形成を防ぎ、血管壁の傷を修復してくれたり、血管拡張作用があります。内臓脂肪が増えると、その分泌量は減ってしまいます。

 

5.ストレスと体重増加

その他、体重増加の要因として重要なのがストレスです。“コロナうつ”などの状態になると体内にコルチゾールという副腎皮質ホルモン(ストレスホルモン)が増加し、血糖値が上がります。これを下げようとしてインスリンが増加し、血糖値が低下します。これにより空腹感が高まり、食欲増加につながります。「ストレスからの過食」という流れは我々もよく耳にすることです。

 

皆様へのメッセージ

このように肥満は、様々な疾患の原因となっていることが既に明確になっています。冒頭にも書きましたように、やはり食生活と生活習慣が肥満を防ぐ大きなポイントです。ただ、今は寒い季節ですから、減量のために運動をしようと急にジョギングなどを始めると、却って心臓に大きな負担となります。有酸素運動を心掛け、十分なウォーミングアップをした後、ウォーキングを週に3日くらい実行するだけで血糖値も下げることができ、少しずつ減量することも可能になります。食事療法については、当クリニックの管理栄養士が、皆様からの様々なご相談にお応えしております。体重の増加に気づかれたら未病のうちにどうぞご相談ください。


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