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Medicコラム

高橋 通[たかはしとおる]東京国際クリニック/医科 院長
循環器科・抗加齢医療

高橋 通

不整脈が脳梗塞を招く!? ~心原性脳塞栓症~

がん、心臓病に次いで死因の第3位は脳卒中

ヒトの脳血管をつなげると約600kmにもなります。脳の血管は、大動脈から分岐を繰り返し最終的には終動脈になりさらにその先は毛細血管となります。この終動脈付近で、血の塊である血栓が血管内を塞いでしまうと、その先に栄養や酸素が行き渡らなくなり組織が壊死します。それが脳梗塞です。
 脳梗塞と脳卒中とを混同される方がいらっしゃいますが、脳卒中は脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの総称です。大きくは、血管が塞がって組織が壊死してしまう脳梗塞と、血管が切れて出血してしまう脳出血やくも膜下出血に分けられます。脳梗塞は脳卒中の約4分の3を占めており、厚労省の人口動態統計(2015年)では、脳卒中患者数は、2020年には国内で300万人を超すと言われています。

 

脳梗塞の種類と原因

脳梗塞はその原因別に大きく3種類に分けられます。1つ目は、脳の中の細い動脈が詰まってできる直径15mm未満の「ラクナ梗塞」。2つ目は高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が原因で起こる「アテローム血栓性脳梗塞」。これは血管壁にアテロームと呼ばれる、コレステロールがたくさん含まれたプラークが破たんし、血栓が形作られて塞がってしまうものです。そして3つ目は心臓の心房細動が原因でできる血栓が、脳血管を詰まらせる「心原性脳塞栓症」です。

 

心房細動はどのように起こる?

心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋からできています。右心房には「洞調律」と呼ばれる微弱な電気信号を発生させる箇所があり、この信号によって心臓の拍動が生み出されています。いわば脈は電気信号なのです。不整脈はこの信号が心臓の別の場所から発生し、規則的ではなく、打ったり打たなかったりする状態です。規則正しく打つはずの脈が不規則になり、その結果、心臓の収縮も不規則になって血圧や血管にも大きな影響を及ぼします。
 安静時の脈は1分間に50回~99回で規則的に打っていれば正常です。50回未満を「徐脈」、100回以上を「頻脈」といいます。またタイミングがずれている状態を「期外収縮」と呼び、いずれも不整脈と総称されます。期外収縮のうち、左心房内の肺静脈付近で発生する細かい電気信号で起こるのが心房細動です。加齢とともに心房細動を起こす頻度も増加します。心房細動は心電図で見ると、ノコギリの歯のような細かい連続性の波形を捉えます。
 心房細動を起こしても何も症状を示さない方もいらっしゃいますが、胸が詰まるような感じが続いたり、脈が飛ぶ感じを訴える方も少なくありません。胸がドキドキ、バクバクしたり(動悸)、脈をとってリズムが乱れていると感じたときには、すぐに受診されるようお勧めします。

 

血栓の発生から脳への移動

心臓の外側の左右に左心耳、右心耳という耳のような形をした部位があり、中は袋状になっています。正常時には、血液が滞ることなく中に入りまた出ていくという流れを続けますが、一旦、心房細動になると左心耳内の血流が滞り始めます。やがて血の塊である血栓が発生します。その血栓が血流に乗って脳へと移動し、脳の動脈に詰まります。一旦、血管が詰まると、そこから先の組織は時間の経過とともに壊死の範囲が拡大します。壊死した部位により、身体の麻痺してくる箇所も増え、麻痺の程度も悪化します。

 

脳梗塞の兆候はFAST

さて、ここで脳梗塞の兆候を発見する簡単な言葉をご紹介しましょう。それは略して「FAST(ファスト)」。
Face=顔の麻痺(左右均等でない動き)、
Arms=腕の麻痺(片腕が動かない)、
Speech=言葉の障害(言葉に詰まる)、
Time=発症時刻が重要

 特に最後の「Time」はその後の治療経過にも関わりますので、身近にこのような兆候を示す方がいらした場合は脳梗塞を疑い、すぐに救急車を呼んでください。そして症状の現れた時刻を救急隊員に告げることも大切です。
 脳梗塞が起きてから4時間半以内であれば、薬剤で血栓を溶かすt- PA(血栓溶解療法)が可能です。さらに必要に応じて、カテーテルを脳の血管内まで挿入し、血栓を絡め取ったり、吸引するなどの「血栓回収療法」も用いられます。発症後の時間経過はその後のリハビリなどにも大きく影響し、患者様のQOL(生活の質)も大きく変わってきます。
 また、血栓ができにくくするお薬も多くの種類があります。特にDOACは比較的新しい抗凝固薬で、従来のワーファリンのような、納豆を食べるとお薬の効き目が弱くなってしまうということもありませんし、使いやすいお薬だと思います。

 

脳梗塞や心房細動を防ぐ食事とは

最後に脳梗塞を防ぐ食事をご紹介しましょう。心房細動そのものは食事ではなかなか防ぐことができませんが、血液をサラサラにすれば血栓の発生を少しでも防ぐことができます。
 それにはEPA/DHAと呼ばれる魚油成分を摂取すること。納豆に含まれるナットウキナーゼや、切ったタマネギを常温で放置していると増える硫化プロペニル、ニンニクやタマネギの辛み成分であるアリシンなども血液サラサラには有用だと言われています。

 

人間ドックを定期的に受けましょう

いずれにしても自覚症状のない不整脈を発見できるのは、心電図検査など検診でのケースが多いので、人間ドックを定期的に受けていただくことが肝要です。当クリニックでは通常の心電図検査に加え、長めに検査する「5分間心電図検査」なども行っており、この検査で期外収縮が発見されるケースも少なくありません。
 これから寒くなり血管も収縮して血圧は高めになります。心臓の動きと共に脳の血管にも大きな影響を及ぼす不整脈。日常のストレスや食事などにも気を配り、この冬も健康にお過ごしください。


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